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【特別寄稿】職場の中の精神・発達障害者への合理的配慮とは

【特別寄稿】職場の中の精神・発達障害者への合理的配慮とは

顔色が悪い、遅刻や欠席を繰り返す、ボーっとしている。上司がこんな部下の様子に気づいたとき、人事担当者から寄せられる相談の中で最近増えているテーマの一つは社員の「うつ病などの精神障害」「発達障害」に関する相談です。 

≪発達障害の診断書を持ってきた社員にどのような配慮が必要か≫

メンタルヘルス不調と思われる社員に対して、どのような対応を取ればよいか≫

このような事項に頭を悩ます企業も多いかと思います。そこで今回は、障害者雇用における合理的配慮について解説をします。 

 

障害者雇用促進法における「合理的配慮」

障害者雇用促進法では、

「事業主は、障害者である労働者について、障害者でない労働者との均等な待遇の確保又は障害者である労働者の有する能力の有効な発揮の支障となっている事情を改善するため、その雇用する障害者である労働者の障害の特性に配慮した職務の円滑な遂行に必要な施設の整備、援助を行う者の配置その他の必要な措置を講じなければならない。」

と定めています。これがいわゆる障害者雇用の「合理的配慮」の根拠条文となります。そもそも前提として、障害者雇用促進法で定める障害者(特に発達障害を含む精神障害者)とはどのような状態の人を指しているのでしょうか。障害者雇用促進法施行規則第一条の四によると、精神障害者とは以下に掲げる者であって、症状が安定し、就労が可能な状態にあるもの、とされています。

①精神障害者保健福祉手帳の交付を受けている者

②統合失調症、そううつ病(そう病及びうつ病を含む。)又はてんかんにかかっている者

これを見るに、例えばうつ病を発症しており就労不可という医師の診断が出ている者が、就労に関する合理的配慮を求めてきた場合、安全配慮義務の観点からもまずは休養を優先させ、本人の希望に基づき配慮のもと就労させる必要まではないといえます。

一方で障害者雇用促進法では、事業主に対して過重な負担を及ぼすこととなるときは合理的配慮の提供義務を負わないともしているのですが、ではどこからが「過重な負担」となるのか、実際どの程度の「合理的配慮」が求められるのかという点が条文を読むだけでは抽象的で判断が困難です。そこで、厚生労働省は「合理的配慮指針」を定め、「基本的な考え方」「合理的配慮の手続」「合理的配慮の内容」「過重な負担」「相談体制の整備等」について具体的な事項を示すこととしています。

合理的配慮指針の内容

次に、合理的配慮指針を確認します。

合理的配慮に関する基本的な考え方として、合理的配慮は障害者と事業主の「相互理解の中で提供されるべき」と示されています。すなわち、合理的配慮の内容はどちらか一方的なものであってはならず、双方の話し合いに基づき確定していくものであるといえます。会社として障害者雇用にかかる一律のルールを定めていたとしても、個別の特性を持つ障害者に対して話し合いを前提に特性に応じた個別性・多様性のある配慮措置を検討していくことが求められています。

一方で、障害者から求められる配慮事項が、事業主にとって「過重な負担」となる場合は、実施できない旨を当該障害者に伝えたうえで本人の意向を尊重し別の措置を講ずることとされているように、会社はできないことは「できない」と伝えることが可能です。ただし、何でもかんでも「過重負担であるから」と配慮を行わないことはできません。

指針によると、過重負担か否かは「事業活動への影響の程度」「実現困難度」「費用負担の程度」「企業の規模」「企業の財務状況」「公的支援の有無」の要素を総合的に勘案した上で、判断することとしています。というように、会社としての配慮の限界を提示することはできるものの、障害者雇用促進法の主旨を鑑みると、会社にとって過重負担にならない範囲の代替措置を提案するなど、歩み寄りの姿勢は必要といえるでしょう。また、過重負担となり障害者の希望する配慮に対応できない場合、上記の要素のどの観点で実施できないとしたのか理由を伝えることが、合理的配慮確定の過程において重要といえます。

なお、合理的配慮はあくまでも「職務の円滑な遂行に必要な措置」ですから、日常生活のために必要なメガネや車いすを提供したり、配慮してもなお職務に支障が出てしまう場合でも本人の希望を通して当該職務に就かせる、ということまでを求められるものではないことを申し添えます。

合理的配慮の実施事例

では、障害者雇用促進法および障害者雇用にかかる合理的配慮指針に基づき、実際にどのような配慮がとられているのかという事例をご紹介します。(厚生労働省障害者雇用対策課「合理的配慮指針事例集」より引用)

①複数の者から指示すると本人が混乱するため、担当者のみが指導を行う。

②通常 60 分休憩だが、本人の希望に応じて、45 分と 15 分に分割して休憩を取れるようにしている。

③感覚過敏を緩和するため、サングラスの着用や耳栓の使用を認める等の対応を行う。

④ジョブコーチや障害者就業・生活支援センター、障害者職業センターの職員の助言を受けながら、効率的な作業方法について本人に伝達している。

⑤新しい仕事を依頼する場合は、事前に伝えて心の準備をしてもらっている。

⑥清掃業務の場所・内容・作業時間等を明示した業務チェックリストを活用し、業務の進捗の確認とフィードバックを行っている。

⑦業務内容・量の変更をせずパターン化して、本人が混乱しないようにしている。

⑧定期的に、臨床心理士その他専門職による個別相談を実施している。

精神・発達障害者であることを会社に知らせずに勤務している場合

会社が社員の精神障害を知らない場合、会社は合理的配慮の提供義務を負うのでしょうか。

合理的配慮指針においては、会社が必要な注意を払ってもその雇用する労働者が障害者であることを知り得なかった場合には、会社は合理的配慮の提供義務を負わないとしています。しかし、単純なミスやもの忘れが多い、注意力がない、その他発達障害の特性から「必要な注意を払えば発達障害であることを知り得た」というような場合はこの限りではありません。

会社は、日頃から社員の言動や様子を観察・記録し、必要に応じて「あなたの状態に対して会社が必要なサポートをするため」などと説明の上受診を勧めることも検討すべきといえます。

合理的配慮義務を果たさなかった場合

障害者に対する差別的取り扱いをしたり、合理的配慮義務を提供しなかった場合、何が起こるのでしょうか。

まず一つ目は、行政機関による指導・勧告対象となることがあります。障害者雇用促進法では、これらに違反した場合、必要であると認めるときは事業主に対して助言・指導又は勧告をすることができると規定しています。また二つ目として、当事者同士で民事的な紛争に発展する可能性があります。例えば、障害者が希望した合理的配慮を企業側に受け入れられなかった場合、障害者から慰謝料や損害賠償を求めて民事調停や民事裁判が提起されるようなケースです。

民事裁判に移行すると、多くの時間、費用、労力をかけることになり会社としても大きな負担となります。可能な限り、紛争状態になる前にまずは当事者同士でしっかりと話し合い、必要に応じて就労支援機関の職員など第三者に入ってもらうなどしながら、合理的配慮の着地点を探る努力を継続することをおすすめします。

≪執筆者紹介≫ やくい社会保険労務士事務所 代表 藥井 遥氏

社会保険労務士/産業カウンセラー/キャリアコンサルタント/小学校教諭第一種免許

スタートアップ企業から中規模企業までの身近な相談先として労務顧問を請け負うほか、顧問先を対象とした業務のクラウド化・電子化支援やCUBICを活用した採用支援、両立支援制度の導入、助成金活用提案などの業務を行っています。

近年では職場環境改善による人材定着を目的とし、ハラスメントやメンタルヘルスに関わる組織内の問題に焦点をあて、研修や個別アプローチによる支援を行っています。





投稿日:2022.02.14
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