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【特別寄稿】会社でのパワーハラスメントトラブル発生時の適切な対応とは(前半/相談窓口の役割)

【特別寄稿】会社でのパワーハラスメントトラブル発生時の適切な対応とは(前半/相談窓口の役割)

20224月、改正労働施策総合推進法が施行され、中小企業にもパワーハラスメント防止措置が義務付けられました(大企業については20206月から施行済み)。これを受けて企業が取り組まなければならない防止措置内容については2021.11.24「【特別寄稿】ハラスメント防止措置の中小企業義務化に向けて」でもご紹介しましたが、今回は実際に会社の相談窓口にパワハラ相談が持ち込まれた際の一次対応としての相談窓口の役割、ハラスメントの事実関係が確認された際の二次対応としての会社の役割を前半・後半に分けて解説いたします。(※後半部については、来月掲載予定)

 

会社はハラスメントの相談窓口を設置し、適切な対応をしなければならない

パワハラ防止指針によると、パワーハラスメントを防止するための雇用管理上の措置として、労働者からの相談に対し、その内容や状況に応じ適切かつ柔軟に対応するために必要な体制として相談窓口を設置し、それを周知しなければならないとされています。その上で、実際に相談があったときに窓口が効果的に機能するよう、相談窓口担当者の対応マニュアルを作成したり、相談対応について担当者が研修を受けておくことが求められています。さらに、パワハラに係る相談の申出があった場合において、その事案に係る事実関係の迅速かつ正確な確認及び適正な対処として、

①事案に係る事実関係を迅速かつ正確に確認すること

②パワハラが生じた事実が確認できた場合においては、速やかに被害を受けた労働者に対する配慮のための措置を適正に行うこと

③パワハラが生じた事実が確認できた場合においては、行為者に対する措置を適正に行うこと

④改めて職場におけるパワーハラスメントに関する方針を周知・啓発する等の再発防止に向けた措置を講ずること  などの対応が義務付けられています。



パワハラトラブルには、会社として対応する

上記のように、パワハラ防止指針においては相談に対する一連の対応が会社に義務付けられているところですが、基本的な考え方としては相談窓口担当者に一任せず、パワハラトラブルには組織として対応する必要があります。ハラスメントが認定された場合は、相談者への配慮措置としての行為者への注意や配置転換、または行為者に対する就業規則に従った懲戒処分の検討など、会社の秩序維持のための措置を講じる必要が生じるからです。

とはいえ、相談の一次対応を行うのは窓口担当者となります。一次対応を誤ってしまうと深刻な事態を放置することにもつながりかねないため、担当者は相談対応のポイントを押さえておく必要があります。

相談担当者に求められる一次対応

相談窓口の担当者は、

①管理職

②人事担当者

③社内の産業保健担当者

④外部担当者(社労士や産業カウンセラー等) などが担当するケースが考えられます。

会社は、事前に担当者を指名し、相談があったときは会社と連携できるよう研修を行っておく必要があります。また可能であれば相談担当者は男女共含めた複数指名するなど、柔軟な相談体制を取られるとよいでしょう。主に相談窓口担当者に求められる役割は以下の部分です。

・苦情・相談の概要を確認すること

・相談者の苦悩に寄り添い、傾聴すること

・相談者の要望を正確に聴き取ること

・相談者のプライバシーに配慮しつつ希望に応じて組織で連携を取ること

相談担当者は相談を受けた時点で被害・加害の認定はくれぐれも行わず、相談者に対する批判や意見も差し控えましょう。相談者は相当の不安と緊張を抱えて相談に来ているはずです。まずはその苦悩を受け止め、相談者が話しやすい雰囲気づくりに徹してください。よくある不適切な対応として、相談者に対して「あなたも悪かったのではないか」と批判をしたり、「相手も悪気はなかったはず」と相談を無理やり解決しようとする例が見られます。相談担当者は相談を受けた時点では「ハラスメントか否か」「どちらが悪いのか」の判断はせず、相談内容の聞き取りと意向確認に終始してください。

なお、相談対応時の補助ツールとして、厚生労働省の「あかるい職場応援団」というホームページからハラスメント相談時の「相談受付票」をダウンロードすることができます。

(https://www.no-harassment.mhlw.go.jp/jinji/download/)

予め用意した相談受付票に沿って相談者の意向や事実関係のヒアリングを行うことで、相談担当者の負担も軽減されますし、対応もある程度標準化することができます。

相談者が行為者への対処を望んでいない場合

ただ話を聞いてほしい、理解してほしいという気持ちで来られる相談者もいらっしゃいますから、こういった場面では「傾聴」の姿勢で相談者に寄り添った受容的な態度が望まれます。「傾聴」のスキルが求められる場面ですので、相談担当者には可能であれば傾聴スキルの研修を受けてもらうのがいいでしょう。

相談者が「相談はしたいが誰にも言わないでほしい」という意向を持っていた場合、基本的には相談者の意向に沿った形で対応することになりますが、会社として聞き取り等具体的な調査ができないことや現状が放置されてしまうことを伝えた上で、事態が深刻な場合などは慎重に相談者の不安を取り除きつつ、会社として対応していくことの了承を得ることが望ましいケースもあります。また相談窓口は守秘義務を負っていますが、相談窓口の担当者が必要なときに相談する場合もあるでしょうから、「必要な関係者(例えば相談窓口の複数担当者や上司等)には、相談者と協議の上で情報を開示することもある。」ことも説明する必要があるでしょう。

相談者が行為者に何等かの対処を望む場合

行為者や第三者への聞き取りが必要な旨や人事や所属長と連携を行う旨を説明し、行為者へ伝えてもいい範囲について慎重に確認をしましょう。

相談者の意向に沿った形で行為者への聞き取りを行った結果、ハラスメントトラブルは当事者同士のコミュニケーション不足が原因であったり認識相違が原因であるケースも少なくありません。そのような場合は、相談担当者が聞き取りをもとに事実の整理を行い、両者に伝達する、相談者の了承を得た上で、所属長が口頭や文書で注意喚起を行う方法も考えられます。

なお、行為者への聞き取りにあたっては、くれぐれも加害者であると決めつけて聞き取りを行うのではなく、あくまでも中立的立場からその発言の真意、発言の状況など客観的事実関係の把握に努めてください。この時点で両者の誤解が取れ和解に至る場合はいいのですが、ハラスメントが行われている状況が明らかな場合や、和解後も状況に改善が見られなかった場合などは、会社はもう少し踏み込んで状況に対処(二次対応)していくことが求められます。

相談担当者との連携体制も検討を

相談担当者自身も一人で抱え込まないよう、人事担当や相談者の上司・カウンセラー等と連携し適切な対応が取れるよう、あらかじめ体制を確認しておくことをおすすめします。またメンタルヘルス不調を訴える相談者や「死にたい」などと自殺を暗示する言動があった場合には、医療専門家等へ相談できるよう、事前に医療機関との連携体制を構築しておくことが望まれます。以上が、ハラスメント相談担当者に求められる対応でした。

次回は、事実調査やハラスメントの認定、行為者・相談者への措置の検討(二次対応)について、解説をしたいと思います。

≪執筆者紹介≫ やくい社会保険労務士事務所 代表 藥井 遥氏

社会保険労務士/産業カウンセラー/キャリアコンサルタント/小学校教諭第一種免許

スタートアップ企業から中規模企業までの身近な相談先として労務顧問を請け負うほか、顧問先を対象とした業務のクラウド化・電子化支援やCUBICを活用した採用支援、両立支援制度の導入、助成金活用提案などの業務を行っています。

近年では職場環境改善による人材定着を目的とし、ハラスメントやメンタルヘルスに関わる組織内の問題に焦点をあて、研修や個別アプローチによる支援を行っています。





投稿日:2022.06.29
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