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【特別寄稿】会社でのパワーハラスメントトラブル発生時の適切な対応とは(後半/会社の役割)

【特別寄稿】会社でのパワーハラスメントトラブル発生時の適切な対応とは(後半/会社の役割)

20224月、改正労働施策総合推進法が施行され、中小企業にもパワーハラスメント防止措置が義務付けられました(大企業については20206月から施行済み)。これを受けて企業が取り組まなければならない防止措置内容については「2021.11.24【特別寄稿】ハラスメント防止措置の中小企業義務化に向けて」でもご紹介しましたが、今回は実際に会社の相談窓口においてハラスメントの事実関係が確認された際の二次対応としての会社の役割を、解説いたします。

一次対応としての相談窓口の役割については、「会社でのパワーハラスメントトラブル発生時の適切な対応とは「2022.06.29【特別寄稿】_前半:相談窓口の役割)」をご覧ください。

 

事実調査やハラスメント認定・相談者や行為者に対する措置の検討

ハラスメントが行われている状況が認められた場合、改めて相談者や行為者、第三者などに事実調査を行うことになります。相談窓口は人事担当部署などに相談内容を伝え、事実関係の確認や対応案を検討することについて、相談者の同意を得ることになります。相談者が行為者や他従業員からの事情聴取を望まない場合は、確認ができなければ、会社としてこれ以上の対応(行為者への指導や処分等)はできないことを説明しましょう。

以下、事実確認や事後の適切な措置については就業環境の改善や企業秩序保持を目的として公正なルールに沿って対応を行う必要があるため、誰か一人の権限で行うのではなく、人事部担当者や社外第三者等で組織されたチームで対応することが望まれます。

事実確認

ハラスメントの事実の認定については、事実確認が重要です。どちらか一方の言い分のみをもって注意や処分を行ってしまうと、適切に措置を講じていないとみなされたり、処分の有効性をめぐってトラブルになる可能性もあります。

行為者への事実確認の際は、相談者のプライバシーへの配慮、報復行為の禁止等について十分に説明する必要があります。くれぐれも加害者であると決めつけて聞き取りを行うのではなく、公正に、あくまでも中立的立場から客観的事実関係の把握に努めてください。また「そんなつもりで言っていなかった」「悪意はない」などという言い分に終始してしまわないよう、いつ、どんな状況で、どのような言葉掛けをしたのか(何を言ったのか)、という事実や言動に焦点を当てて聞き取ることがポイントです。行為者への聞き取り内容については、「あかるい職場応援団」のダウンロードページ内(https://www.no-harassment.mhlw.go.jp/jinji/download/)「行為者聞き取り票」が参考にし、記録票に沿って記録しておきます。

相談者と行為者の言い分が異なることは、よくあります。当事者同士の言い分だけでは事実が確認できない場合、第三者への聞き取りも行うことも検討し、第三者への聞き取りを行う場合は内容を口外しないこと、事実確認に協力したことで不利益な取扱いを受けることはないことを説明してください。事実確認の目的は、それぞれの主張内容を一致させることではなく、状況を客観的・合理的に把握し判断するための情報収集であることを押さえておきたいと思います。

ハラスメントの認定と措置の検討

相談者、第三者、行為者からの聞き取り調査を経て、パワハラの事実の認定を行います。ハラスメントの認定にあたっては「パワハラ防止指針」の内容に照らし合わせ、その状況、関係性、目的、頻度、裁判例、同社の過去類似事案等を勘案し総合的に判断することになります。その結果、ハラスメントに該当する事案なのか、該当はしないが何等かの措置は必要な事案なのか、ハラスメントとは評価できない事案なのか、等の評価に応じて対応を検討してください。

なお、速やかに相談者への配慮と行為者に対する措置を検討することになりますが、ハラスメントトラブルへの対応の目的は、問題となっている言動が直ちに中止され、良好な職場環境の回復と企業秩序の維持であることから、事実確認が完了していなくとも、相談者の状況や事案の性質に応じて、被害を拡大させないための対処を迅速にとることが優先されるケースもあります。ハラスメントとは認められない事案であったとしても、行為者や相談者に対する注意喚起や指導、当事者間の関係改善に必要な援助、今後のフォローアップ体制の整備、状況を悪化させないための取組(場合によっては配置転換や、改めてのハラスメント防止の一斉周知や研修など)などの再発防止措置を講じることが必要です。また、その判断に至った経緯や上記取組について十分に双方に説明し理解を得ることが求められるでしょう。

処分の妥当性

ハラスメントに該当すると判断された場合の対応案としては、行為者への注意、相談者への謝罪、配置転換、懲戒処分などが考えられます。

懲戒処分を検討する場合、それが人事権の濫用にならないよう注意が必要です。まずは処分の内容がきちんと就業規則に規定されており、規定に沿った手順で処分が決定されているかを確認しましょう。そして、処分の内容が違反行為の重さと過去の類似事例や判例とも照らし合わせてバランスが取れているか、いきなり段階の重い処分となっていないか等、必要に応じて社会保険労務士や弁護士などの社外専門家と相談をしながら慎重に検討することをおすすめいたします。過去の判例においては、ハラスメント行為の内容や程度、加害者の役職や地位、事前指導の有無、手続等を勘案し懲戒処分の合理性が判断されています。

社外の紛争解決制度の利用

事実調査が十分に行えない、話し合いや聞き取りに協力を得られないなど、社内での解決が困難な場合は、社外の紛争解決制度を利用する方法もあります。

あっせんとは、都道府県労働局に設置されている紛争調整委員(弁護士、大学教授、社会保険労務士などの労働問題の専門家)が紛争当事者の間に入り、双方の主張の要点を確かめ、調整を行い、話し合いを促進することにより、紛争の解決を図ることができる制度です。裁判に比べ手続きが簡便で、非公開であるため紛争当事者のプライバシ―は保護されます。利用の場合は、労働局や労働基準監督署の総合労働相談コーナーから申請ができることになっています(会社・労働者双方からの申請が可能で利用は無料)。

以上が、ハラスメントトラブル発生時の会社の対応のポイントでした。特に規模のさほど大きくない会社では、担当者の選任や会社としての相談の事後対応の決定など、困難に感じられることも多いかもしれませんが、外部へ相談窓口を委託したり、専門家に相談する、行政の労働相談窓口やあっせん制度を利用するなど、外部資源も大いに利用しながら令和4年4月からのハラスメント防止措置の義務化に対応していただけたらと思います。

≪執筆者紹介≫ やくい社会保険労務士事務所 代表 藥井 遥氏

社会保険労務士/産業カウンセラー/キャリアコンサルタント/小学校教諭第一種免許

スタートアップ企業から中規模企業までの身近な相談先として労務顧問を請け負うほか、顧問先を対象とした業務のクラウド化・電子化支援やCUBICを活用した採用支援、両立支援制度の導入、助成金活用提案などの業務を行っています。

近年では職場環境改善による人材定着を目的とし、ハラスメントやメンタルヘルスに関わる組織内の問題に焦点をあて、研修や個別アプローチによる支援を行っています。





投稿日:2022.07.11
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