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【特別寄稿】ハラスメント防止措置の中小企業義務化に向けて

【特別寄稿】ハラスメント防止措置の中小企業義務化に向けて

令和261日、労働施策総合推進法(以下パワハラ防止法)が改正され、大企業におけるパワーハラスメントの防止措置が義務化されました。この改正により、パワーハラスメント問題を放置したり、ハラスメントを会社に相談したことによる不利益な取扱いをすることは禁止され、大企業は中小企業に先立ってハラスメント問題の対応に迫られていました。

そして令和44月、いよいよ中小企業にも改正パワハラ防止法が適用され、大企業同様の義務が課されることになります。そこで今回は、パワハラ防止法において禁止される事項、そしてパワハラ防止法が施行されることにより求められる企業対応について解説いたします。

禁止される事項

まず、パワハラについて会社に相談したこと、第三者として事実関係の確認に協力したこと等を理由として解雇や退職勧奨、降格などの不利益取り扱いをすることは禁止されます。人間関係からの切り離しなどにより結果として相談者の就業環境を悪くすることも、不利益取り扱いに含まれます。

ハラスメント防止措置

また、パワハラについて相談に応じ、それに対応するための体制整備、その他必要な雇用管理上の措置を講じなければならないこととなります。「必要な雇用管理上の措置」とは、具体的にはパワハラに対しては厳正に対処する旨の方針表明や周知啓発、相談体制の確立、パワハラ相談への適切な対処、その他相談者等のプライバシーを保護する措置等のことを指します。

相談窓口はすでに設置されている会社も多いと思われますが、実際にパワハラに関する相談があった時にどのように対応するかについて、事前に一定の担当者研修やマニュアル整備、そして相談体制整備が必要でしょう。

相談担当者としての基本的な対応スキル(傾聴スキル)研修の実施、プライバシー保護のためのルール策定(相談者の意向をベースに対応する、第三者聞き取りをした場合であっても相談内容について外部に話をしてはならない旨を説明する等)、相談記録票の作成などの体制整備が考えられますが、相談窓口については相談しやすさを考えて外部委託をするというのも一手です。

相談に対する適切な対応

パワハラ問題で、相談者が何かしらの処分を行為者に希望した場合はどうすれば良いでしょうか。

こういった明確な相談者側の意向があった場合であっても、まずは会社として事実確認を行うことになります。行為者に聞き取りを行う際は頭から行為者を被処分者として扱うのではなく、双方の事情、言い分、事実関係を中立的な立場で聴くことがポイントです。

当事者、第三者からの聞き取り調査を元に、最終的に会社がパワハラ問題の対応を決定することになります。処分の決定は、くれぐれも相談担当者一名で行ったりしないよう、委員会を組織するなど複数で対応するようにしてください。

最終的にハラスメントと認定し行為者を処分するほか、ハラスメントとまでは言えないとする結論になる場合もあると思います。その場合も、なぜそのような判断に至ったか、相談者に調査結果を誠意をもって報告することになります。ハラスメントの認定を行わないと結論づけた場合であっても、相談者の心情に配慮し人事異動など必要な措置を講ずる必要性があることもあるかもしれません。

パワハラの解決手段・行政指導

では、相談者が外部の窓口に相談をした場合は何が起こるのでしょう。

都道府県労働局には、パワハラについて相談できる窓口が設置されています。行政の相談窓口も、相談者の話のみをもってパワハラを認定することはできませんが、相談者が当事者同士での解決を望んだ場合は解決の方法の一つとしてあっせん制度を利用させてもらうことができます。あっせんとは弁護士や社労士などのあっせん委員が中立的な立場で双方の主張を調整し、あっせん案の提示を行う制度です。

あくまでも当事者間の和解を目指す制度として無料で利用できるのですが、法の拘束力がないためあっせんに参加するかどうか、あっせん案に合意するかどうかは当事者に委ねられてしまうことが難点であり、裁判とは大きく異なる点です。

一方でパワハラ防止法が施行された後については、パワハラの防止措置を講じない企業は行政指導の対象になることに注意が必要です。行政から法の履行について報告を求められ勧告等に従わない場合は、最終的に企業名が公表される可能性があるのです。令和4年4月以降、こういった行政指導に備えるためにも、中小企業は方針表明や相談窓口の設置、対応体制の確立などのパワハラ防止措置を講じておく必要があります。

そして法の履行は当然に必要な一方で、別の視点からみるとパワハラ防止は労働者にとっての職場環境を整える重要な施策の一つとも言えるのは皆さんご承知の通りでしょう。パワハラを放置された挙句退職した社員が会社の評判をSNS等に書き込み悪評判が広まる、などのリスクも想定しなければなりません。

こういったトラブルを生まないためにも、ぜひこの法改正を機にハラスメントの相談体制・防止措置体制の確立と制度運用を行い、労働者にとって働きやすい職場づくりを目指してみてはいかがでしょうか。

≪執筆者紹介≫ やくい社会保険労務士事務所 代表 藥井 遥氏

社会保険労務士/産業カウンセラー/キャリアコンサルタント/小学校教諭第一種免許

スタートアップ企業から中規模企業までの身近な相談先として労務顧問を請け負うほか、顧問先を対象とした業務のクラウド化・電子化支援やCUBICを活用した採用支援、両立支援制度の導入、助成金活用提案などの業務を行っています。

近年では職場環境改善による人材定着を目的とし、ハラスメントやメンタルヘルスに関わる組織内の問題に焦点をあて、研修や個別アプローチによる支援を行っています。

投稿日:2021.11.24
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